大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成11年(ワ)1947号 判決

原告

小山田潤一

被告

山瀨義一

主文

一  被告は、原告に対し、金六三四万七四八〇円及びこれに対する平成八年一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一一一九万五六八九円及びこれに対する平成八年一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告(昭和五三年六月二五日生まれ)が、平成八年一月一八日午後四時五〇分ころ、大阪府泉南市岡田二丁目三五九番地先路上(以下「本件道路」という。)において、原告運転の自動二輪車(一和泉せ六二三一。二五〇cc。以下「被害車両」という。)と被告運転の普通貨物自動車(和泉四〇を四二五。以下「加害車両」という。)が衝突した事故(以下「本件事故」という。)により、損害を被ったとして、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、被告に対し、損害賠償請求をした事案である。

一  争いのない事実及び証拠(乙一四ないし一七)により容易に認められる事実

(一)  本件事故が発生したこと

(二)  被告に自賠法三条、民法七〇九条の損害賠償責任が存すること、なお、被告は運転免許を有していなかったこと

(三)  原告が、本件事故により、左大腿骨骨折、両下腿打撲、腹部打撲、左膝打撲の傷害を負い、聖心会堀病院に平成八年一月一八日から同年五月一日まで入院(一〇五日)し、平成八年五月二日から同九年一二月三日まで通院(実通院日数一一六日)し、佐野記念病院に平成九年一二月一七日から同月二九日まで入院(一三日)し、平成九年一二月一日から同一〇年三月二日まで通院(実通院日数二四日)した(ただし、上記入院期間を除く。)こと、本件事故により、原告に左膝関節の機能に障害を残す後遺障害別等級表一二級七号該当の後遺障害が存すること

二  争点

(一)  本件事故の態様(過失相殺)

原告の主張

原告は、被害車両を運転して、原告進行方向から緩やかに左カーブをしている、車線区分のない幅員の狭い本件道路を北から南に向け進行していたところ、折から、被告運転の加害車両が本件道路一杯を占めた状態で南から北に向け、時速四〇キロメートルで進行してきたので、原告は、咄嗟に制動措置を講じたが、加害車両の制動措置が遅れたため、間に合わず、衝突したものである。原告は、本件事故を避けようがない状況にあり、一方、被告は、徐行義務に反し、かつ、前方注視義務に反し、しかも、無免許運転であったことから、本件事故は、被告の一方的かつ重過失により発生したものである。

被告の主張

本件道路は、南北に伸びる幅員約三・一メートルの狭い道路であり、歩車道の別も、中央線もなく、交通量の少ない道路である。本件事故現場は、北から南に向かうと緩やかにカーブしており、前方の見通しは悪い。原告は、被害車両を運転して、時速約四五キロメートルを遙かに上回る速度で、本件道路中央辺を減速することなく、走行し、衝突地点手前五メートルの地点において、加害車両を発見し、急制動の措置を講じたが、間に合わず、衝突した。一方、被告は、時速三〇キロメートルないし四〇キロメートルで、本件道路中央辺を南から北へ向かって走行していたところ、前方から被害車両が本件道路中央付近を勢いよく対向して来るのを発見して、急制動の措置を講じたが、間に合わず、衝突した。なお、被告は、本件事故当時、運転免許資格を喪失していたが、運転技術そのものは有していた。

原被告の本件事故当時の運転方法を比較するとき、前方注視及び運転速度の点において、原告の運転方法の方がより危険であったので、相応の過失相殺がなされるべきである。

(二)  原告の損害額

原告の主張

原告の損害額は、別紙原告主張損害額記載のとおりである。なお、被告主張の損害填補額のうち、被告の支払に係る分が一九〇万円であることは争う。この点の被告の損害填補額は、四〇万円である。残金一五〇万円は、原告の父親である小山田一夫が、平成八年三月一五日、同人の損害分及び原告の物損差額分として、被告から受領したものであって、本件請求に係る損害賠償項目とは無関係である。

被告の主張

治療費、入院雑費は認める。その他はいずれも争う。なお、原告の填補損害額は、治療費分一二八万七七九三円、義肢代一四万六三八八円、原告への支払金一九〇万円、自賠責後遺障害保険金二二四万円の合計五五七万四一八一円である。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様

証拠(甲九、一〇、乙一ないし五、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

本件道路は、南北に伸びる幅員約三・一メートル以下の狭い道路であり、平坦なアスファルトの歩車道の別も、中央線もない道路である。交通量はさして多くない。本件事故現場は、北から南に向かうと左に緩やかにカーブしており、道路左側には、フェンスがあり、前方の見通しは悪い。原告は、被害車両を運転して、時速約四五キロメートルで、本件道路中央辺を減速することなく、走行し、衝突地点手前五メートルの地点において、加害車両を発見し、急制動の措置を講じたが、間に合わず、衝突した。この点、原告は、本件道路が左にカーブをしていて見通しが悪いにもかかわらず、減速徐行せず、前方の安全の確認が不十分なまま、時速四五キロメートルで進行した過失がある。一方、被告は、時速三〇キロメートルないし四〇キロメートルで、本件道路中央辺を南から北へ向かって走行していたところ、前方から被害車両が本件道路中央付近を勢いよく対向して来るのを発見して、急制動の措置を講じたが、間に合わず、衝突した。この点、被告は、本件道路が右にカーブをしていて見通しが悪いにもかかわらず、減速徐行せず、前方の安全の確認が不十分なまま、時速三〇ないし四〇キロメートルで進行した過失がある。なお、被告は、本件事故当時、減点の累積により免許取消処分を受け、自動車運転免許資格を失っていた。

本件事故の態様、原・被告の過失の内容・程度、加害車両と被害車両の車両としての性格の差異、被告が本件事故当時、減点の累積により自動車運転免許資格を失っていたこと(自動車運転免許資格のない被告が加害車両を運転してさえいなければ、そもそも本件事故が発生していないはずである。このことは、被告が事実上、運転技術を持っていたとしても変わりがない。その意味で、被告による無免許運転の事実は、過失相殺の事情として重視されねばならない。)、その他一切の事情を考慮するとき、原告の過失は三割、被告の過失は七割と認めるのが相当である。

二  原告の損害額

原告は、本件事故により、次のとおり損害を被ったことを認めることができる(以下、一円未満は切り捨て)。

(一)  治療費 一二九万四九八三円(争いがない。)

(二)  入院雑費 一五万三四〇〇円(争いがない。)

(三)  入通院慰謝料 二一〇万〇〇〇〇円

原告の病状、入通院期間、実入通院日数、その他一切の事情を考慮するとき、原告の入院慰謝料としては、原告主張のとおり二一〇万円をもって相当と認める。

(四)  授業料、共済掛金、その他費用 一一万九一五〇円(甲三)

(五)  後遺症逸失利益 七八一万七〇二四円

原告は、昭和五三年六月二五日生まれで、本件事故当時、一七歳の高校二年生であった。平成八年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者の一八歳ないし一九歳の平均賃金額二二四万四六〇〇円を基礎として、後遺障害別等級表一二級七号につき、労働能力喪失率一四%として、新ホフマン係数により中間利息を控除して、後遺障害逸失利益を算出すると、次のとおりとなる(なお、原告は、症状固定日である平成一〇年三月三月二日当時、一九歳である。)。

二四四万四六〇〇円×〇・一四×二二・八四〇五=七八一万七〇二四円

なお、新ホフマン係数二二・八四〇五は、一七歳から六七歳までの五〇年間の新ホフマン係数二四・七〇一九から一七歳から一九歳(症状固定時)までの二年間の新ホフマン係数一・八六一四を差し引いたものである。

(六)  後遺障害慰謝料 二四〇万〇〇〇〇円

原告の後遺症の症状、後遺症が後遺障害別等級表一一級七号に該当すること、その他一切の事情を考慮するとき、二四〇万円をもって相当と認める。

(七)  損害合計 一四〇三万〇九四五円

前記損害合計一三八八万四五五七円のほか、原告は、義肢代一四万六三八八円(争いがない。)の損害を被った。

(八)  過失相殺後の損害 九八二万一六六一円

前記のとおり、原告には、本件事故の発生につき、三割の過失があるので、過失相殺をすると、その額は、九八二万一六六一円となる。

(九)  損益相殺後の損害 五七四万七四八〇円

以上の損害額合計九八二万一六六一円から既払額四〇七万四一八一円を控除すると、原告の損害額は、五七四万七四八〇円となる。

なお、被告は、原告の填補損害額は、治療費分一二八万七七九三円、義肢代一四万六三八八円、原告への支払金一九〇万円、自賠責後遺障害保険金二二四万円の合計五五七万四一八一円であると主張するが、上記五五七万四一八一円のうち原告への支払金一九〇万円のうち一五〇万円を除くその余の四〇七万四一八一円は、弁論の全趣旨により認められるところ、証拠(甲六、七)及び弁論の全趣旨によれば、上記一五〇万円は、原告の父親である小山田一夫が、平成八年三月一五日、同人の損害分及び原告の物損差額分として、被告から受領したものであることが認められる。したがって、上記一五〇万円は、本件請求に係る損害賠償項目とは無関係であるということができる。それゆえ、これは、損益相殺の対象とならない。

(一〇)  弁護士費用 六〇万〇〇〇〇円

本件事故の内容及び態様、本件の審理の経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、六〇万〇〇〇〇円をもって相当と認める。

(一一)  原告の損害額 六三四万七四八〇円

以上によれば、原告は、本件事故により金六三四万七四八〇円の損害を被ったということができる。

(一二)  よって、原告の請求は、主文記載の限度で理由がある。

(裁判官 中路義彦)

原告主張損害額

原告は、本件事故により、次のとおり、金1,119万5,689円の損害を被った。

1 治療費 129万4,983円

2 入院雑費 15万3,400円

3 入通院慰謝料 210万0,000円

入院118日

通院27か月(実通院日数140日)

4 授業料、共済掛金、その他諸費用 11万9,150円

原告は、本件事故当時、府立泉南高校2年に在学していたところ、本件事故のため、進級できず、やむを得ず留年し、1年間の授業料等の費用の支出を余儀なくされ、同額相当の損害を被った。

5 後遺障害逸失利益 825万6,979円

原告は、昭和53年6月25日生まれで、本件事故当時、17歳の高校2年生であった。平成8年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者の18歳ないし19歳の平均賃金額244万4,600円を基礎として、後遺障害別等級表12級7号につき、労働能力喪失率14%として、48年の新ホフマン係数により中間利息を控除して、後遺障害逸失利益を算出すると、次のとおりとなる(なお、原告は、症状固定日である平成10年3月2日当時、19歳である。)。

244万4,600円×0.14×24.126=825万6,979円

6 後遺障害慰謝料 240万0,000円

後遺障害別等級表12級7号

7 弁護士費用 80万0,000円

8 既払金 392万8,823円

(一) JA共済支払分 168万8,823円

(二) 自賠責保険支払分 224万0,000円

9 結論 1,119万5,689円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例